ろうそくの炎は、上にすっとのびた、しずくの形をしています。ところが宇宙では、炎は丸くなるといわれています。分かれ目になるのは、重力がつくる空気の流れです。この記事では、炎の形が変わるしくみと、宇宙で燃焼実験が行われている理由を、やさしく紹介します。
ろうそくの炎は、なぜしずくの形?

誕生日ケーキのろうそくも、キャンプの焚き火も、炎はいつも上に向かってゆらめきます。炎を横に倒そうとしても、すぐ上にのびようとします。あまりに身近で、理由を考えたことのない人も多いのではないでしょうか。ライターを逆さまにしても、炎はやはり上へ向かってのびます。炎の向きは、道具の向きではなく、重力の向きで決まっているのです。
そのカギは、まわりの空気の動きです。炎は、まわりの空気をあたためます。あたたまった空気は軽くなって上へのぼり、あいたところへ、下から新しい空気が流れこみます。こうした浮力(軽いものが上へのぼる力)による空気の流れを、対流といいます。地上では、炎のそばに秒速30〜40cmほどの対流が生じるとされています。炎は、この流れに引きのばされて、上にのびた形になるのです。

宇宙では、炎が丸くなる

では、国際宇宙ステーション(ISS)の日本の実験棟「きぼう」のような場所では、どうでしょうか。重力が地上よりはるかに小さい環境では、浮力による対流が抑えられます。空気が流れなければ、炎を上にのばす力もはたらきません。そのため、空気が止まった状態で燃えると、炎は全方向に同じように広がります。
たとえば、燃料の小さな液滴(しずく)を燃やすと、球の形をした炎ができます。つまり、炎のしずく形は「炎そのものの形」ではなく、「重力のもとで空気が流れた結果の形」だったのです。ここで大切なのは、炎が丸くなるのは、空気がほとんど動かない状態で燃える場合の話だということです。宇宙船の中でも空気の流れがゼロになるわけではなく、実際の実験では、秒速数cm程度のゆるやかな流れの中で材料が燃えるとされています。地上の対流(秒速30〜40cm)と比べると、はるかにゆっくりした流れです。

「無重力」ではなく「微小重力」

宇宙の話では「無重力」という言葉をよく聞きますが、きぼうの船内は、完全に重力がないわけではありません。地上の100万分の1から1万分の1ほどの重力があるとされ、このような、ごくわずかな重力の状態を「微小重力」と呼びます。1
この記事のタイトルでは、わかりやすさを優先して「重力のない火」としています。ただし、正確には「重力がきわめて小さい環境での火」です。重力がほとんどないからこそ、地上では浮力の影響にかくれてしまう効果、たとえば熱泳動(温度の差で小さな粒子が動く現象)や、液体の表面の張力による流れなども、見えやすくなります。
宇宙で燃焼実験をするのは、なぜ?

宇宙で炎の実験をする目的は、形の観察だけではありません。大きな目的のひとつが、宇宙での火災を防ぐことです。宇宙船の中の火災は、重大な事故につながりかねません。そのため、宇宙で使う材料が、微小重力の環境でどのくらい燃えやすいのかを、実際に燃やして調べています。
きぼうでは、燃焼容器の中で材料を燃やし、カメラで炎の広がり方を観察する実験が行われています。実験では、月や火星のような低重力では、地上より燃えやすくなる可能性も示されています。将来の月探査などで安全に過ごすために、こうした基礎データが役立てられます。炎の広がりは、1秒間に最大2,000コマを撮れる高速度カメラや、温度の分布をとらえる赤外線カメラなどで記録されます。
実験で比べる条件は、地上と同じ重力を1Gとして、火星の重力にあたる約3分の1G、月の重力にあたる約6分の1G、そして微小重力です。酸素の濃さも、有人の月探査で想定される居住空間の環境を考えて、多めの条件まで設定できる装置が使われています。最終的には、アルテミス計画(月探査)などで使う材料を、燃焼試験で正しく評価できる方法をつくることが目標とされています。
よくある質問
Q. 宇宙で火を使っても大丈夫?
宇宙船内の火災は重大な事故につながるため、燃焼実験は、専用の燃焼容器の中など、管理された条件で行われています。ふだんの生活で自由に火を使えるわけではありません。
Q. 無重力だと、燃えやすい?消えやすい?
一概にはいえません。材料の種類や、空気の流れ、酸素の濃さなどの条件によって変わります。低重力では地上より燃えやすくなる可能性を示す実験もあり、だからこそ材料ごとに燃えやすさを調べています。
Q. なぜ「酸素の濃さ」を調べるの?
火が燃え広がり続けられるかどうかは、まわりの酸素の濃さに左右されます。材料ごとに、火が広がり続ける酸素の濃さの限界を調べておけば、その材料が宇宙でどのくらい燃えやすいかを比べられます。
Q. 宇宙の炎は、どこで調べられているの?
ISSの日本の実験棟「きぼう」で行われています。2022年から続く実験では、材料ごとに火が広がり続ける酸素の濃さの限界を調べています。2017年には、1mmほどの液滴を並べ、液滴の間を火がどう広がるかを調べる実験も行われました。
まとめ:炎の形を決めているのは、重力が生む空気の流れ

地上の炎がしずく形なのは、あたためられた空気が上へ流れる対流のためです。重力がきわめて小さい宇宙では、この対流が抑えられ、空気が止まった状態で燃える炎は、丸くなります。この違いを調べることは、宇宙での火災を防ぎ、将来の月探査などにも役立ちます。次にろうそくの炎を見るときは、その形をつくっている空気の流れを、思い出してみてください。

