宇宙では、金属と金属が触れただけで、溶接したようにくっついてしまうことがある……、そんな話を聞いたことはありませんか。これは「冷間圧接(れいかんあっせつ)」と呼ばれる現象。ただし、宇宙ならいつでも勝手にくっつくわけではありません。この記事では、起きる条件と、探査機で実際にあったトラブル、宇宙機の防ぎ方を、ESA(欧州宇宙機関)とNASAの資料をもとに紹介します。
「冷間圧接」とは、どんな現象?

冷間圧接とは、熱で溶かさなくても、金属の面どうしが強くくっついてしまう現象のことです。溶接は、金属を熱で溶かしてつなぎますが、冷間圧接は、常温のままで起きるのが特徴です。
ESAの技術資料(STM-279)1では、真空の中で、すき間なく触れ合う部品に衝撃や細かい摺動(しゅうどう:こすれ合う小さな動き)が加わったときに起きる問題として、冷間圧接が取り上げられています。対象になるのは、むき出しの金属だけではありません。コーティングをした金属や合金も含まれます。欧州では「adhesion(付着)」「sticking(固着)」「stiction(スティクション)」といった呼び方もされているそうです。
地上では、なぜ金属はくっつかないの?

日本機械学会の「機械工学事典」2によると、冷間圧接は、高真空の中で、きわめて清浄(きれい)に保たれた金属の面どうしを触れさせたとき、熱を加えなくても接合してしまう現象と定義しています。大気中では、金属の表面に酸化膜がすぐにできます。この膜があるおかげで、ふだんは、金属の素地どうしが直接ふれ合うことがありません。
一方、極度の高真空にある宇宙では、清浄な面が長い時間たもたれるため、この現象が起きやすいと、同じ事典に書かれています。膜が削れて素地が出た金属どうしが強く押し合うと、くっつきやすくなります。ESAの資料が「真空下で」「衝撃や摺動が加わったとき」を条件にしているのは、このためと考えられます。

実際に起きた事例:ガリレオ探査機のアンテナ

よく例に出されるのが、木星探査機「ガリレオ」のトラブルです。NASAのJPL(ジェット推進研究所)の技術者が書いた論文3によると、1991年4月11日、ガリレオは高利得アンテナ(地球に大量のデータを送るための傘のようなアンテナ)を開く手順を実行しました。ところが、アンテナは完全には開きませんでした。
NASAの資料では、アンテナの骨組み(リブ)18本のうち、隣り合う3本が中央の塔に固着したままだったと説明されています。固着の原因として挙げられているのは、リブのピンとソケット(はめ合わせ部分)の間の、大きな摩擦です。ピンとソケットの接触面に強い力がかかり、潤滑のための膜が壊れたと、解析されています。

調査では、金属どうしが一部で直接くっつく「冷間圧接」についても、地上の実験で調べられました。ただ、NASAの資料は、実際の固着の原因を冷間圧接と断定してはいません。「ガリレオのアンテナは、冷間圧接で開かなくなった」と、紹介されることも少なくありませんが、資料からみえてくるものは、「摩擦による固着で、潤滑膜の損傷も関わった可能性が高い」というところまでです。
じゃあ、宇宙では金属は勝手にくっつく?

結論から言うと、「勝手に」くっつくわけではありません。ESAの資料で挙げられているように、くっつくのは、真空の中で、金属の部品が接触して、衝撃やこすれ合いが加わったときです。宇宙に金属を2つ浮かべたら、近づいてピタッとくっつく、というものではありません。

宇宙船の部品どうしが触れ合う場所では、打ち上げ時の振動などで、被膜が傷つく可能性があります。そのため、設計の段階で、「くっつきにくい組み合わせ」を選ぶことが大切になります。
宇宙機は、くっつきを、どう防いでいるの?

ESAのSTM-279は、材料の組み合わせごとに、くっつきやすさを調べる標準的な試験の手順を提案しています。そして、真空で使ってよい組み合わせと、避けるべき組み合わせを、データとして整理しています。このデータは、オンラインのデータベースとしても公開されているそうです。
NASAのガリレオの資料でも、潤滑のための被膜(二硫化モリブデンを主成分とする乾燥潤滑膜)が試験されています。被膜の性能は、空気中より真空中のほうが良かったと、結論に書かれています。つまり、宇宙機の部品では、「真空でどう動くか」を、地上であらかじめ試すことが重要なのです。
よくある質問
Q. 冷間圧接と、ふつうの溶接は、どうちがうの?
溶接は、熱で金属を溶かしてつなぎます。冷間圧接は、熱で溶かさず、常温のまま、金属の面どうしが強くくっつく現象です。
Q. どの金属の組み合わせがくっつきやすいか、調べられますか?
ESAのSTM-279では、材料の組み合わせごとのデータを、オンラインのデータベースにまとめているそうです。真空で使える組み合わせと、避けるべき組み合わせが整理されています。
Q. ガリレオのアンテナは、結局どうなったの?
NASAの資料では、アンテナは完全に開かない状態になった、とされています。その後の回復の方法については、今回の資料では確認できていません。
まとめ:宇宙の金属は「勝手に」ではなく、条件がそろうとくっつく

冷間圧接は、真空の中で、むき出しになった金属どうしが、衝撃やこすれ合いを受けたときに起きる現象です。ガリレオ探査機のアンテナの固着は、摩擦と潤滑膜の損傷が関わっていたと、NASAの資料に書かれています。「宇宙では金属が勝手にくっつく」と聞いたら、「条件がそろえば」という一言を、ぜひ思い出してください。
参考:

