JAXA、火星衛星探査機「MMX」打上げ発表|H3ロケットで“人類初”の快挙へ

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、火星衛星探査機「MMX」を搭載したH3ロケット10号機の打上げ計画を発表しました。打上げ予定日時は2026年10月20日4時41分。種子島宇宙センターから発進し、人類初となる「火星圏からのサンプルリターン」という快挙に挑みます。

目次

なぜ世界が注目?火星衛星探査「MMX」が挑む人類初のミッション

人類は今、宇宙探査の歴史において未だ誰も成し遂げていない未知の領域へと踏み出そうとしています。火星の周りを回る謎多き衛星「フォボス」。平均直径約22kmの不規則なジャガイモ型をしたその異世界の地表に降り立ち、物質を直接採取して地球へと持ち帰る……。かつて小惑星で世界を驚嘆させた日本が次に挑むのは、規模も難易度も桁違いの「火星圏からのサンプルリターン」という人類初の金字塔です。

MMXミッション全体像と2026年〜2031年サンプルリターン・タイムライン図解
MMXミッション全体像と2026年〜2031年サンプルリターン・タイムライン

フォボスから砂を持ち帰る! 2031年帰還への壮大な挑戦

「MMX(Martian Moons eXploration)」は、火星の衛星である「フォボス」に着陸し、その表面からサンプルを採取して地球へと持ち帰る国際探査計画です。フォボスは平均直径が約22kmと小さく、自らの重力で球形になれなかった歪んだ「ジャガイモ型(不規則形状)」の天体です。探査機は「往路モジュール」「探査モジュール」「復路モジュール」からなる日本初の3モジュール構成を採用しており、総打上げ質量は4,480kg、ミッション期間は5年間に及びます。2026年度に日本から旅立ち、2031年度に人類初となる火星圏からのサンプルリターン実現を目指します。

MMX探査機
MMX探査機/画像提供:JAXA

生命の起源に迫る「水と有機物」の謎

探査機が持ち帰るフォボスのサンプルに含まれる含水鉱物・水・有機物の詳細な分析と、各種カメラ・分光計によるリモートセンシング観測を通じ、原始太陽系における「有機物や水の移動、天体への供給過程」を解明します。これは、地球型惑星においてどのように生命が誕生し、居住可能な環境が形作られたのかという根本的な謎に迫るものです。さらにMMXは、将来の火星有人探査の軌道上拠点と目される火星衛星の表面地形、地盤情報、周辺環境データを事前に取得する役割も担っており、国際宇宙探査のトップバッターとして世界から大きな期待が寄せられています。

「はやぶさ」「はやぶさ2」との徹底比較:ミッションと必要な技術力の違い

JAXAの深宇宙探査といえば、2010年に小惑星イトカワから微粒子を持ち帰った初号機「はやぶさ(MUSES-C)」、そして2020年に小惑星リュウグウで世界初の人工クレーター作成と地下サンプル採取に成功した「はやぶさ2」が世界的に知られています。日本は小惑星サンプルリターンのパイオニアですが、今回のMMX計画は、これまでの小惑星探査とはミッションの狙いも、探査機に求められる構造・能力も全く異なります。

① ミッション目的と対象天体の違い

「はやぶさ2」が目指した小惑星リュウグウは、太陽系初期の化石のような小天体であり、太陽系形成初期の姿を留める小惑星から有機物や水を持ち帰ることが主目的でした。一方、MMXが目指す「フォボス」は、巨大な火星のすぐ近くを回る衛星です。「フォボスはかつて火星に巨大天体が衝突して飛び散った破片が固まったものか(巨大衝突説)、それとも通りすがりの小惑星が火星の重力に捕まったものか(捕獲説)」という太陽系科学最大の謎を解明することが目的です。また、地球型惑星(火星や地球)へどのように水や有機物が供給されたかという「惑星形成の最終章」を紐解くミッションとなります。

② 探査機構造と質量(約600kg → 4.4トン)の違い

「はやぶさ2」は単一の構造で打上げ質量は約600kgでした。これに対し、MMXの総質量は「はやぶさ2」の7.5倍以上にあたる「4,480kg(約4.5トン)」という規格外の超大型機です。火星圏という深い重力の谷へと往復するため、MMXは日本初となる「3モジュール分離構造」を採用しています。火星到着までの長距離航行と大推力を担う「往路モジュール」、着陸脚や観測機器・サンプラーを備えてフォボス上で探査を行う「探査モジュール」、そして試料をカプセルに収めて地球へ生還する「復路モジュール」という、目的ごとに最適化された機能分離が施されています。

③ 推進系と着陸・採掘メカニズムの違い

「はやぶさ2」は、少ない燃料で長期間飛行できる「イオンエンジン(電気推進)」を主推進系とし、重力がほとんどない小惑星に対して数秒間だけ接地して弾丸を撃ち込む「タッチアンドゴー方式」で表面試料を採取しました。しかし、強大な火星の重力圏で作動するMMXは、短時間で強力な加減速を行う必要があるため、高推力の「化学推進エンジン」をメインに使用します。さらに、フォボスには無視できない重力があるため、MMXは4本の頑丈な着陸脚で地表に完全に「定着着陸」し、地表下2cm以上を掘削するコアサンプラー(コアラー方式)などを用いて確実な試料採取を行います。

打上げ日時とタイムライン:2026年10月20日未明に発進!

H3ロケットの打上げ〜火星遷移軌道投入シーケンス概念図
H3ロケットの打上げ〜火星遷移軌道投入シーケンス概念図

打上げスケジュールと追跡体制

  • 打上げ予定日時:2026年10月20日(火)4時41分3秒(日本標準時)
  • 打上げ予備期間:2026年10月21日(水)~11月7日(土)
  • 打上げ場所:種子島宇宙センター 大型ロケット第2射点

追跡・通信ネットワークは、牧川追跡所、内之浦宇宙空間観測所、小笠原追跡所に加え、米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターと連携し、データ中継衛星(TDRS)を中継点として利用する高度な追跡体制が敷かれます。

リフトオフ(0分)からMMX分離(71分)までの高度・飛行速度推移データグラフ
リフトオフ(0分)からMMX分離(71分)までの高度・飛行速度推移データグラフ

火星への旅立ち:分離までの「71分間」の軌道投入ドラマ

鹿児島・種子島を飛び立ったH3ロケットは、ピッチ面を方位角90度(東方向)へ向け太平洋上を通過しながら、秒単位で精密な飛行シーケンスを実行します。

STEP
リフトオフ(00分00秒)

高度0km、慣性速度0.4km/s

STEP
SRB-3(固体ロケットブースタ)分離(約1分56秒、約1分58秒)

打上げ約1分56秒後に第1ペア、1分58秒後に第2ペアを分離(高度約60km、慣性速度2.1km/s)

STEP
衛星フェアリング分離(03分17秒)

高度131km、慣性速度3.3km/sで大気圏外へ脱出

STEP
第1段燃焼停止・分離(04分52秒〜04分59秒)

高度約210km、慣性速度6.2km/sで第1段を切り離し

STEP
第2段 第1回燃焼(05分12秒〜10分40秒)

第2段エンジン(LE-5B-3)に着火し、慣性速度7.7km/s(高度329km)まで加速したのち、慣性飛行に入ります

STEP
第2段 第2回燃焼(1時間03分57秒〜1時間10分21秒)

高度3,837km付近から再着火し、火星へと向かう脱出速度である慣性速度11.2km/sまで一気に加速します

STEP
MMX探査機分離(1時間11分12秒)

高度592kmにて、所定の「火星遷移軌道」へと探査機MMXを正確に投入・分離します

ブースター4本!“最強形態”「H3-24L」ロケットの凄さ

H3ロケット(H3-24L形態)の内部構造・主要構成要素のカットアウェイ図解
H3ロケット(H3-24L形態)の内部構造・主要構成要素のカットアウェイ図解

全長約63m・総重量約575トンの巨体を支える圧巻スペック

今回の打上げでは、H3ロケットの中でも最も推力の高い「H3-24L」形態が投入されます。

H3-24Lロケット諸元:全備質量内訳(約575t)および各ステージの真空推力比較
H3-24Lロケット諸元:全備質量内訳(約575t)および各ステージの真空推力比較
  • 第1段(LE-9エンジン×2基):全長約37m、外径約5.2m、質量約240t。真空中で約2,942kNの推力を発揮します。
  • 固体ロケットブースタ(SRB-3×4本):全長約15m、外径約2.5m、4本合計の質量は約304.8t。真空中最大推力約9,200kNという強大なパワーで初期加速を叩き出します。
  • 第2段(LE-5B-3エンジン):全長約12m、外径約5.2m、質量約28t。真空中推力約137kNで軌道投入を行います。
  • 衛星フェアリング(ロング):全長約16.4m、外径約5.2mの大型ロングフェアリングが選定されています。

国際協力と先進技術が集結:ミッション成功率を高める工夫

MMX探査機には、国際協力のもとで開発された最先端の観測機器が惜しみなく搭載されています。日本開発の高精度光学カメラ(TENGOO・OROCHI)に加え、フランス国立宇宙研究センター(CNES)提供の近赤外分光装置(MIRS)、米国航空宇宙局(NASA)提供のガンマ線・中性子線分光計(MEGANE)などが組み合わされます。

さらにMMX計画では、日欧米の国際協力のもとで開発された小型探査ローバ「IDEFIX」による地表の事前調査や、2方式のサンプリング機構による確実な試料採取、火星と衛星の重力を巧みに利用する「擬似周回軌道(QSO)」での高度な運用など、ミッションの成功率を極限まで高める先進技術が結集されています。

まとめ:日本の宇宙探査が切り拓く新しい未来

今回の打上げ実施にあたっては、警戒区域の設定(陸上・海上・上空)や、警察・海上保安庁(第十管区)・航空局との綿密な安全連携が構築されています。打上げの可否は前々日の15時までに決定されて通報されるほか、打上げ完了後は迅速に内閣府への報告および報道発表が行われます。

小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」で世界を驚嘆させた日本のサンプルリターン技術が、H3ロケットという最新鋭の翼を得て、ついに「火星圏」という次なるフロンティアへ飛翔します。2026年10月20日未明、種子島から放たれる一閃は、惑星科学の歴史に新たな1ページを刻むことになります。

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この記事を書いた人

はじめまして、星空ログ編集部です。「星空をもっと身近に」を合言葉に、初心者向けの望遠鏡選びといった実用的な情報から、知って得する天体雑学まで、宇宙にまつわるさまざまなコンテンツをお届けしています。日々刻々と変わる夜空の魅力を、わかりやすく丁寧にお伝えしていきます。

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