2026年8月30日、NASAの新しい宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が打ち上げられました。ハッブル、ジェイムズ・ウェッブに続くNASAの大型宇宙望遠鏡で、宇宙の約95%を占めるとされる「ダークエネルギー」や「ダークマター」の謎に挑みます。この記事では、ローマン望遠鏡とは何か、何がすごいのか、いつ本格的な観測が始まるのかを、専門知識がなくてもやさしく解説します。
ハッブル、ウェッブに続く「第3の巨大望遠鏡」が宇宙へ

宇宙望遠鏡といえば、美しい銀河や星雲の写真で知られる「ハッブル宇宙望遠鏡」や、2021年に打ち上げられた最新鋭の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。その系譜に、新たな一台が加わりました。2026年8月30日(アメリカ東部時間)、NASAの「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が、フロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられたのです。

打上げに使われたのは、民間企業スペースXの大型ロケット「ファルコンヘビー」。ローマン望遠鏡は今、地球から遠く離れた観測ポイントを目指して、宇宙空間を旅している最中。この望遠鏡が挑もうとしているのは、現代の天文学に残された最大級の謎……暗い宇宙の正体を解き明かすことです。
「ローマン」という名前の由来
この望遠鏡の名前は、ナンシー・グレース・ローマン博士(1925〜2018)にちなんでいます。彼女はNASAで初めて主任天文学者を務めた人物で、宇宙から天体を観測するという構想を早くから推し進めました。その功績からハッブル宇宙望遠鏡の母とも呼ばれています。宇宙望遠鏡という分野を切り拓いた先駆者の名を受け継ぐにふさわしい、大型プロジェクトなのです。

ローマン望遠鏡は何を目指すのか

ローマン望遠鏡の大きな目的は、主に3つあります。いずれも、宇宙の成り立ちに関わる根源的なテーマです。
① ダークエネルギー:宇宙を加速膨張させる正体不明の力
宇宙は今も膨張を続けていますが、その膨張はなぜか加速していることが分かっています。この加速を引き起こしている正体不明のエネルギーがダークエネルギーです。宇宙全体のエネルギーの約7割を占めるとされながら、その正体はまったく分かっていません。ローマン望遠鏡は、膨大な数の銀河を観測することで、この謎の力の性質に迫ろうとしています。

② ダークマター:目に見えない「重さ」の正体
宇宙には、光を出さず目には見えないのに、重力の影響だけは確かに存在する物質があります。これがダークマター(暗黒物質)です。銀河がバラバラにならずにまとまっていられるのは、このダークマターの重力のおかげだと考えられています。
では、目に見えないものを、どうやって探すのでしょうか。手がかりのひとつが重力レンズ効果。これは、遠くの天体から届く光が、途中にある重い物質の重力によって曲げられ、像がゆがんだり、分裂して見えたりする現象のこと。レンズ越しに景色がゆがむのと似ています。ローマン望遠鏡は、この光のゆがみ方を精密に観測することで、見えないダークマターがどこにどれだけあるのかを、いわば「影絵」のように描き出そうとしています。

③ 系外惑星:太陽系の外にある「別の世界」
太陽以外の恒星のまわりを回る惑星を系外惑星といいます。ローマン望遠鏡は、遠くの恒星の手前を惑星が横切るときのわずかな変化などをとらえ、これまで見つけにくかったタイプの惑星も含めて、数多くの系外惑星を発見すると期待されています。搭載された「コロナグラフ」という装置は、まぶしい恒星の光をさえぎることで、そのそばにある暗い惑星を直接とらえることを目指しています。

ローマン望遠鏡のすごさは「圧倒的な視野の広さ」

ローマン望遠鏡の最大の特徴は、その視野の広さにあります。NASAによると、ローマン望遠鏡が一度にとらえられる範囲(視野)は、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上。ハッブルに匹敵する精細さを保ちながら、はるかに広い範囲を一気に撮影できるのです。

この「広さ」が、なぜ重要なのでしょうか。ダークエネルギーやダークマターの研究には、数億〜数十億という途方もない数の銀河を観測し、統計的に調べる必要があります。視野が狭い望遠鏡で少しずつ撮影していては、気の遠くなる時間がかかってしまいます。ローマン望遠鏡は広い視野を活かし、NASAによれば宇宙を調べる速度はハッブルの約1000倍にもなるといいます。まさに「宇宙の広域地図」を一気に描くための望遠鏡なのです。観測の主役となる「広視野観測装置」には、3億画素という高精細な赤外線カメラが搭載されています。
目指すのは地球から約160万kmの「L2」

ローマン望遠鏡が向かっているのは、太陽・地球のラグランジュ点L2(エルツー)と呼ばれる、地球から約160万km離れた宇宙空間の一点です。ここは、太陽と地球の重力がうまく釣り合い、望遠鏡が安定して留まりやすい「宇宙の特等席」ともいえる場所。先に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡も、この同じL2で観測を続けています。地球の熱や光の影響を受けにくく、宇宙をじっくり観測するのに適しているのです。
ローマン望遠鏡がL2に到着するまでには、打上げから約3か月かかる見込みです。その後、機器の調整(コミッショニング)を経て、最初の本格的な画像は2027年の初めごろに公開される予定です。観測が始まれば、1日あたり1.4テラバイトという膨大な量のデータが地球へ送られてくることになります。
よくある質問

Q. ハッブルやジェイムズ・ウェッブ望遠鏡とは何が違うのですか?
大きな違いは視野の広さです。ハッブルやウェッブが宇宙のごく狭い範囲を非常に深く精細に観測するのに対し、ローマン望遠鏡はハッブル並みの精細さを保ちながら、100倍以上も広い範囲を一気にとらえます。深く狭く見るのがウェッブ、広く見渡すのがローマン、と役割分担しているとイメージすると分かりやすいでしょう。それぞれの得意分野を組み合わせることで、宇宙の理解がさらに進むと期待されています。
Q. ダークエネルギーやダークマターとは何ですか?
どちらも、まだ正体が分かっていない宇宙の謎です。ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速させている正体不明の力、ダークマターは目に見えないのに重力の影響を持つ物質のことです。実は、私たちが目にできる星や銀河などの「普通の物質」は宇宙全体のわずか5%ほどで、残りの約95%はこのダークエネルギーとダークマターが占めているとされています。宇宙の大部分は、まだ「正体不明」なのです。
Q. いつから望遠鏡の写真が見られますか?
ローマン望遠鏡は打上げ後、約3か月かけて観測地点であるL2へ向かい、そこで機器の調整を行います。最初の本格的な画像が公開されるのは、2027年の初めごろになる見込みです。どんな宇宙の姿を見せてくれるのか、公開が待ち遠しいですね。
まとめ:宇宙の「見えない9割」に挑む新たな目

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、2026年8月30日に打ち上げられた、NASAの新しい大型宇宙望遠鏡。ハッブルの100倍以上という圧倒的に広い視野を武器に、ダークエネルギー、ダークマター、そして系外惑星という宇宙の大きな謎に挑みます。目指すのは、宇宙の約95%を占めるとされる「見えない世界」の解明です。
本格的な観測の始まりは2027年初頭の見込み。ハッブル、ジェイムズ・ウェッブ、そしてローマンと、人類の「宇宙を見る目」はますます進化しています。これからどんな発見が飛び込んでくるのか、ぜひ一緒に注目していきましょう!

