月は毎年3.8cmずつ遠ざかっている?|その理由と、いつか起きること

月は遠ざかっているアイキャッチ

「月は少しずつ地球から離れている」と聞いたことはありませんか? その速さは、なんと年間およそ3.8センチメートル。数字だけ聞くとピンと来ないかもしれませんが、この小さなズレの裏には、地球の自転そのものを巻き込む壮大な物理現象が隠れています。今回は、その理屈から、はるか未来に起きることまで、じっくり掘り下げてご紹介します。

目次

本当に月は遠ざかっているのか?

月

実はこれ、推測ではなく実際に測定されている数値です。1969〜1972年のアポロ計画で、宇宙飛行士たちは月面に「再帰性反射鏡(コーナーキューブプリズム)」というパネルを設置しました。地球から月に向けてレーザー光を発射し、この鏡に反射して戻ってくるまでの時間をミリ秒以下の精度で測ることで、地球〜月の距離をミリメートル単位で割り出せます。この「月レーザー測距」を50年以上続けてきた結果、月が年間約3.8センチメートルのペースで遠ざかっていることが確認されています。

月までの距離をレーザーで測る

アポロが置いた反射鏡に、地球からレーザー光を送って往復時間を計測

月までの距離をレーザーで測る

地球の天文台から発射したレーザー光は、月面の反射鏡ではね返り、往復にかかった時間から地球〜月の距離をミリメートル単位で割り出せます。この観測を50年以上続けた結果、月が年間およそ3.8センチメートルのペースで遠ざかっていることが分かりました。

なぜ遠ざかるのか? 鍵は「潮汐力のズレ」

月

月の重力は地球の海水を引き寄せ、月に面した側とその反対側の2か所に「潮汐バルジ」と呼ばれる海面のふくらみを作ります。ここで重要なのが、地球の自転(24時間で1周)は月が地球を回る速さ(約27.3日で1周)よりずっと速い、という点です。

海水は地球の自転に引きずられるため、この潮汐バルジは「月の真下」からわずかに東側(地球の自転方向)へずれた位置にできます。すると、このズレた分の海水の重力が、月を進行方向へわずかに引っぱる力(トルク)として働きます。

後ろから軽く押されるような形で、月は公転のエネルギーを少しずつ受け取ります。ここでひとつ面白いのが、エネルギーを受け取った月は「加速して速く回る」のではなく、「より高い軌道へ移り、かえって公転速度は遅くなる」という点です。エネルギーが速度ではなく高度(軌道半径)に変換される、というのが天体力学の面白いところです。

潮汐バルジがつくる「引っぱる力」

地球の自転が、海水のふくらみを月の真下からわずかにずらす

潮汐バルジがつくる「引っぱる力」

月の重力が引き寄せる海水のふくらみ(潮汐バルジ)は、地球の自転によって「月の真下」の位置から進行方向側へわずかにずれます。このズレた分の重力が月を進行方向へ引っぱるトルクとなり、月は公転エネルギーを受け取って少しずつ外側の軌道へ移っていきます。

月に力を与えた分、地球は「遅くなっている」

月

物理には「角運動量保存の法則」というルールがあり、地球の自転が失った分の角運動量は、そっくりそのまま月の公転に渡っています。つまり、月が遠ざかっているのと引き換えに、地球の自転はほんの少しずつ遅くなっているのです。その割合は100年あたり約1.8ミリ秒。

「そんな微量、誤差では?」と思うかもしれませんが、この理論は別の証拠からも裏付けられています。成長の速いサンゴの中には、昼と夜で成長速度が変わり、木の年輪のような「日輪」を殻に刻むものがいます。大昔の化石サンゴの日輪を数えると、数億年前の1年は今よりも日数が多かった、つまり当時の1日は今より短かったことが分かっており、物理学の計算とみごとに一致します。

地球の自転は少しずつ遅くなっている

100年で約1.8ミリ秒。サンゴ化石の日輪もそれを裏付ける

地球の自転は少しずつ遅くなっている

角運動量保存の法則により、地球の自転が失った分のエネルギーは月の公転に渡っています。その結果、1日の長さは100年あたり約1.8ミリ秒ずつ伸びており、成長の速いサンゴ化石に残された日輪(1日ごとの成長線)の数からも、大昔の1日が今より短かったことが確認されています。

この先に待っているのは「皆既日食が見られなくなる未来」

皆既日食

私たちが皆既日食を見られるのは、実は奇跡的な偶然のおかげです。太陽は月よりずっと大きいですが、地球からずっと遠くにあるため、見かけの大きさ(視直径)が月とほぼ同じになっています。だからこそ月がぴったり太陽を隠し、あの美しいコロナが見える瞬間が生まれます。

しかし月が遠ざかり続ければ、見かけの大きさはどんどん小さくなっていきます。やがて太陽を完全に隠しきれなくなり、およそ6億年後には、地球上のどこからも皆既日食は見られなくなると考えられています(金環日食は残ります)。

いつか皆既日食は見られなくなる

月が遠ざかるほど、太陽を覆いきれなくなっていく

いつか皆既日食は見られなくなる

今、皆既日食が見られるのは、太陽と月の見かけの大きさがほぼ一致しているという偶然のおかげです。月が遠ざかり続けると見かけの大きさは徐々に小さくなり、およそ6億年後には地球上のどこからも太陽を完全に隠せなくなると考えられています(金環日食は残ります)。

まとめ:いま、皆既日食が見られるのは、奇跡!

いま、皆既日食が見られるのは、奇跡!

年3.8センチという、爪が伸びるより少し遅いくらいの小さな変化。その裏には、潮汐力によるトルク→角運動量の受け渡し→地球の自転が遅くなる→やがて皆既日食が見られなくなる、という壮大な連鎖が隠れていました。私たちがいま皆既日食を見られるのは、46億年という地球の歴史の中でも、ほんの一瞬の「特等席」にいるからなのかもしれません。

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この記事を書いた人

はじめまして、星空ログ編集部です。「星空をもっと身近に」を合言葉に、初心者向けの望遠鏡選びといった実用的な情報から、知って得する天体雑学まで、宇宙にまつわるさまざまなコンテンツをお届けしています。日々刻々と変わる夜空の魅力を、わかりやすく丁寧にお伝えしていきます。

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